読書の種を育てるブログ

本が読みたい休日のすすめ

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相沢沙呼「medium霊媒探偵城塚翡翠」

こんにちは!

小町です。

 

今回は【城塚翡翠シリーズ】三部作をご紹介。

 

清原果那さん主演でドラマ化もされた話題作ですから、読んだ方、観た方も多いのではないでしょうか?

とはいっても、こちらネタバレ厳禁な内容となっていますので、

見どころと感想だけを書いていきたいと思います。

 

楽しみたい方は!絶対に!ネタバレサイトやシリーズ順を無視して読み進めないことをお勧めします!

 

 

『medium 霊媒探偵城塚翡翠

 

あらすじ

死者が視える霊媒・城塚翡翠と、推理作家・香月史郎。心霊と論理を組み合わせ真実を導き出す二人は、世間を騒がす連続死体遺棄事件に立ち向かう。証拠を残さない連続殺人鬼に辿り着けるのはもはや翡翠の持つ超常の力だけ。だがその魔手は彼女へと迫り――。ミステリランキング5冠、最驚かつ最叫の傑作!(講談社文庫 相沢沙呼「城塚翡翠シリーズ」特設サイト|講談社文庫 (kodanshabunko.com)(2024.2.8参照)から引用)

 

まずは第一作目ですが、あえて公式から引用しました。

この期待値爆上がりのあらすじに、初版の帯には

「すべてが、伏線。」

の言葉。

どれだけ、期待させるんですか!


正直、煽られすぎて実際読んでみるとそうでもなかった経験はたくさんしております……

半信半疑で手に取りましたが、感想としては、

 

たまらなかった…!

 

盛大な煽りに負けない内容と、ミステリとしての面白さに読み応えありの大満足でございます。

 

 

作者の相沢沙呼さんにとってデビュー10年目の作品で、

それ以前は「日常の謎」というミステリージャンルを好んでいる感じでしたが、今回ついに殺人を解禁。

とんでもない作品を世に送り出しましたね。

引用したサイト内でのインタビューでも、「誰かに話したくなるような小説を書きたい」と考えた作品とのことで、読んだ方と感想を共有したくなります。

作中にはシャーロックホームズや古畑任三郎などのオマージュが散りばめられていて、相沢さんのミステリ好きがうかがえますね。

 

そして、シリーズの2作目と3作目は、倒叙ミステリとなっています。

『invert 城塚翡翠倒叙集』

『invert II 覗き窓の死角』

 

 

 

ちなみに、聞きなれない方向けに解説しますと、

倒叙ミステリとは?

読者が最初から犯人を知っているもので、探偵がトリックをどう見破り、犯人にたどり着くのかに焦点が当たります。例えば、古畑任三郎シリーズや東野圭吾さんの「容疑者Xの献身」など。

 

反対に叙述ミステリと呼ばれるのは、一般的には犯人が伏せられ、文章で伝わる情報が少ないことを利用して作者が読者をミスリードしていくものですね。情報が増えてしまうので映像化すると面白味が減ってしまうこともあります。例えば、伊坂幸太郎さんの「アヒルと鴨のコインロッカー」や綾辻行人さんの「十角館の殺人」などでしょうか。

 

見どころは?

主人公の城塚翡翠は、「特殊な能力」で犯人が分かってしまいますが、

現実問題、物証がなければ犯人を捕まえることはできません。

特に2、3作目は犯人を探すことや謎を解いていく単純なエンタメ性と一線を引いて、読者に推理を投げかけます。

あなたならどう論理を組み立てますか、と。

 

「思考を止めない」こと。

 

大枠は倒叙といいつつ、叙述トリックでも読者をだましにかかりますし、

王道でテクニカルな手法も満載です。

 

推理が好きな方は必見!

初心者でも、ミステリを深く楽しむことができる作品だと思います。

 

 

相沢沙呼medium 霊媒探偵城塚翡翠』,講談社,2019年.

相沢沙呼『invert 城塚翡翠倒叙集』,講談社,2021年.

相沢沙呼『invert II 覗き窓の死角』,講談社,2022年.

 

多崎礼「煌夜祭」

こんにちは!

小町です。

 

今回は、久々のファンタジー多崎礼さんの「煌夜祭」です。

綺麗な表紙にワクワクします。

 

 

 

あらすじ

十八諸島の世界を巡り、各地で話を集め、伝え歩く語り部冬至の夜に夜通し物語が行われる煌夜祭だが、島主がいない屋敷で二人だけの語りが始まる。

二人の語り部

二人の語り部が誰もいない島主の屋敷で物語をするところから始まりますが、ここがどんな世界なのか、はじめはまったく何もわかっていません。

語り部に名前はなく、仮面の特徴から頭蓋骨(トーテンコフ)と小夜啼鳥(ナイティンンゲイル)と呼ぶことにします。二人が語るのは、どこかで伝え聞いたおとぎ話のような、実話のような、不思議なお話です。

 

入れ子構造になっており、複雑なところもありますが、物語が進むにつれ徐々にこの世界のことがわかっていきます。

・死の海に蒸気で浮かぶ島々を気球船でつないでいること

・「魔物」と呼ばれる人を喰う不死の存在がいること

・最近大きな戦争があったこと

など。

短篇を読んでいるようで、実はひとつひとつのピースが集約し、紐解かれていくのは先の戦争の真実です。

 

魔物の存在

「魔物」という存在がなぜ生まれてくるのか。

その理由を知りたかった子(ムジカ)がこの世界を大きく展開させていきます。

一人の子どもと魔物の姫との約束が、この物語の大きなカギとなっていくのですが、、、

 

これ以上はネタバレになってしまいそうですね。(笑)

ファンタジーは上手に解説できません💦

特にこの作品は情報を入れずに浸って読んでほしいと思ったので、あまり書かないことにします。

 

ひとつ、ムジカダケというキノコが出てくるのですが、いろんなところに生えるのに毒があって食べられないので、「役立たず」という意味にも使われます。

しかし、実はそのキノコにも立派な役割があったわけで、すべては意味をもって存在するものだと教えてくれます。

 

すべてのことには意味がある

終盤、二人の語り部の正体が明らかになります。

本来語り部の素性は詮索しない決まりですが、明かされることでまたひとつ物語は完結します。

 

語り部の仮面のように、なしえなかった想いは受け継がれ、誰かが繋いでいく。

「すべてのことには意味がある」と思わせてくれる美しい物語です。

「私は思うの。この世に存在するもの、すべてに意味があるのだと。貴方がこの島を焼いたことにも、そこに私が居合わせたことにもきっと意味があるのだと思う」*1

 

途中で胸が締め付けられる展開もあり、たとえ国が滅んでも、たくさんの人が犠牲になっても愛するたった一人を守りたい、という気持ちがとても切なく。。。

 

ファンタジーだから描ける「愛」の表現があるなと、改めて感じました。

子供のころファンタジー好きだった方に読んでほしい作品です。

 

 

 

多崎礼煌夜祭』,中央公論社,2023年11月。

 

*1:226

現実は生きづらい!村田沙耶香「丸の内魔法少女ミラクリーナ」

こんにちは!

小町です。

 

2か月ほど更新があいてしまいました。年末年始は忙しかったです。

そんな中でもコツコツ本は読み進め、やっとブログに書き起こしているところです。

 

今回も短篇集、村田沙耶香さんの「丸の内魔法少女ラクリーナ」を取り上げます。

不思議なタイトルに惹かれましたが、内容はむしろ厳しい現実。

そのギャップを感じながら楽しく読めました。

 

 

あらすじ

茅ヶ崎リナ、36歳は魔法少女歴27年。今日もコンパクトで魔法少女に変身してストレスフルな社会を乗り切ります。魔法少女ラクリーナは、モラハラ彼氏に苦しめられる親友を救うことができるのか。

ポップな設定に包んでリアルを突きつけてくる短篇4作です。

 

丸の内魔法少女ラクリーナ

誰もが、多かれ少なかれ理不尽な社会と戦うため、自分ではない何かを纏っているのではないでしょうか。そのスイッチは化粧だったり、スーツだったり、高級な腕時計だったり様々です。

その点で私は、魔法少女に変身するのも共感できる部分が多かったです。

主人公にとって自分を守るすべが魔法少女への変身なのです。

 

また魔法少女は、別の自分という側面ともう一つ、子供のころに憧れたヒーローでもあります。

大人になると忘れていってしまうことも多いですが、自分が大切にしていた気持ちや心をしまっておける拠り所、間違わないように道を示してくれた指針なんですね。

親友のマジカルレイミーも魔法少女を通して自分の譲れない部分に気づくことができた描写はとてもよかったです。

社会から自分を守る鎧を着て、今日も頑張る皆さんに、

ぜひ読んでもらいたい作品です。

結局、正義なんてどこにもないんだ、というのがミラクリーナの出した結論だった。大人になるということは、正義なんてどこにもないと気付いていくことなのかもしれない。*1

 

秘密の花園

最初、主人公(内山さん)は早川君が好きでこんな行動をとっていると思ってました。。。

恋を終わらせるためには幻滅が必要。生理的嫌悪感を得るための衝撃的な行動でしたが、なかなか面白い短篇でした。どう思うか内容は読んでみてください。

 

無性教室

「性別」が禁止された学校が舞台。昨今のジェンダー問題への実験的な小説です。しかし、性を無くそうとすればするほど、強烈に意識されてしまうというジェンダーフリーの限界も見えます。同作者の「消滅世界」も読みましたが、その前段という感じでしょうか。

性がなくても愛や自分というものが成り立つのか、小説の中で試行錯誤されているのだろうと思います。

 

変容

個人的にはこれが一番面白かったです。「if」な世界を描くのが上手なんですよね。(何様目線)

「怒り」の感情がなくなったとしたら、世の中はどうなるのでしょう。非合理的な感情がなくなることで円滑に物事が運ぶかもしれません。

最近の若者は交際経験が少なくなっている、怒ることが少ないって、実際聞きますよね。そんなことありえないと思う設定も、うまく現代と地続きに、SFとは言い捨てがたいリアリティが生れています。

ファッションとかと同じで、性格にも「流行」があり、誰かが仕掛けているのだというのも妙にリアルでそうかもしれないと思ってしまいました。お見事です。

「大丈夫。僕たちは、容易くて、安易で、浅はかで、自分の意志などなくあっという間に周囲に染まり、あっさりと変容しながら生きていくんだ。自分の容易さを信じるんだ。僕たちが生まれる前からずっと、僕たちの遺伝子はそれを繰り返していきてきたじゃないか。」*2

 

なんとなく、ファンタジーが読みたくなってきました。次の投稿はファンタジーに決めました。

 

 

村田沙耶香『丸の内魔法少女ラクリーナ』,KADOKAWA,2020年4月。(文庫版『丸の内魔法少女ラクリーナ』,KADOKAWA,2023年2月初版,5月再版。ここでは文庫版を使用)

*1:39頁

*2:194頁

読書のおとも①ブックカバー編

こんにちは!

小町です。

 

読書日記は小休止で、読書の時間にかかせないお気に入りアイテムを紹介していきたいと思います。

今回は、愛用のブックカバー‼

こちらです。

 

10年近く使っているのでもうボロボロ(笑)

革は色味が変わったり、折の癖がついたりして、愛着が湧くからいいですね。

 

そろそろ新調したいとは思うのですが、なかなか今のを超えるものが見つからない。

サイズに合わせて織り込めるタイプは好きじゃないので、しっかり挟めるのがよく、

革だと、表面がつるっとしているのが好みですが、

 

こういうのとか。

でも、案外高い(笑)

 

色々見ていたら「樹」のブックカバーなんてものがありました。

これは使ったことないです。いいかも。

色味も選べてお値打ち。

 

次はどれを相棒にしようか悩み中の私です。

 

今回は短いですがこんな感じで。

読書のおともシリーズも定期的にやっていきたいです。

 

みなさんのおすすめもぜひ教えてください。

 

 

 

 

 

伊与原新「月まで三キロ」

こんにちは!

小町です。

 

読書習慣が戻りつつあるこの頃ですが、合間の時間に読みやすいのは短編ですね。

今回は伊与原新さんの「月まで三キロ」を取り上げてみます。

書きたい事はいっぱいありますが、長くなるのでそれぞれ完結に。

 

 

あらすじ

月や雪や素粒子が、誰かの人生を照らしてくれている。理系の知識を通して心温まる短編6編と掌編1編です。

 

月まで三キロ

死に場所を探す男が出会ったのは、月に一番近い場所を知っているというタクシードライバー。見上げる月。近づけばそこにいる人と話せるような気がします。

あそこまで三十八万キロあると言われたら、そんな風に見える。だが、三キロ先だと言われたとしても、そう見える気がした。*1

科学の知識に心を救われるような感覚って初めてでした。

月まで三キロの真相はぜひ読んでみてくださいね。

 

星立花

雪の結晶にもそれぞれ名前がついているなんて恥ずかしながら知りませんでした。

同じように見える雪にも、ひとつずつ形が違って個性があって。

雪の結晶に重ねて、そんな風に自分を見つけてくれる人に出会えるといいなと思います。

 

アンモナイトの探し方

小学6年生の朋樹は、中学受験や親の離婚などこどもながらに悩み、解決できない壁に直面しています。そんな時に化石採りのおじいさんと出会い採掘に取り組んでみるのですが。

キンキンキンとハンマーで硬い岩を割る様子が、さながら自分の心の硬くなった部分を壊していく様にも見えます。

「(前略)わかることではなく、わからないことを見つけていく作業の積み重ねだよ」(中略)「科学に限らず、うまくいくことだけを選んでいけるほど、物事は単純ではない。まずは手を動かすことだ」*2

目の前のことをただ取り組んでみる。それがいつか何かの役に立つかも。全く違うように見える科学と人生に共通点を見出すことができます。

 

天王寺ハイエスタス

「ハイエスタス」、私は全然聞きなれない言葉でしたが、「中断」「無堆積」という意味とのこと。

堆積し続ける地層で、何も堆積しない時期がある。それは無ではなく、後の時代から見れば、何もないことにも意味を見出すことができるのです。

何もないことにも意味がある。理系的発想になるほど、と思わされました。

 

エイリアンの食堂

毎晩食堂に訪れる女性研究者と母親を亡くした女の子の交流に心温まる物語です。この世は素粒子でできている。すべて同じ物質からできているのだから、私もあなたも、そこにあるものだってつながっていると考えることもできます。

一番小さいものを調べることで大きなことがわかってくるんですね。

 

山を刻む

家族に尽くしてきた主婦の決心。趣味の山登り中に出会った火山学の先生と生徒と話し、新しい一歩を踏み出します。ダイニングテーブルも山も人生も何度も良くも悪くも刻まれていく。でもそんなところが結局手放せない愛着あるものになっていくのだと思いました。

 

 

全体として……

人の心を救うのは、誰かからの助言や励ましだけではないのですね。

ただそこにある自然、心理、知識が、背中を押してくれることだってあります。

そして具体的な地名が多く、この小説と現実世界が地続きで身近に感じさせてくれます。

 

実は、現在放送中の「どうする家康」大河ドラマ館を目的に浜松へ行くことがありまして。お土産売り場でこちらを見つけました。

小説にインスピレーションを受けて創作された「Tsuki」というお菓子です。

美味しくいただきました。

 

 

伊与原新『月まで三キロ』,新潮社,2018年12月。(文庫版『月まで三キロ』,新潮文庫,2021年8月,二刷。ここでは文庫版を使用)

*1:42頁

*2:156頁

お金の使いかたで生き方がわかる?原田ひ香「三千円の使いかた」

 

こんにちは!

小町です。

 

労働環境のせいでなかなかできない更新。やっと第3回目という感じです。

原田ひ香さんの「三千円の使いかた」を読んでの感想を書いていきますが、

タイトルの時点で、自分ならどうかな?と考えが膨らみそうです。

 

 

あらすじ

美帆、真帆、智子、琴子……御厨家の女性たちは、どのように人生と向きあい、どのようにお金を使うのか?節約と家族をテーマにした小説です。

 

最近は物価高、値上げラッシュで節約が世の中のトレンド。私自身も資産形成しなきゃなと思うこの頃です。

そんな中で手に取ったこの本。今出会えてよかったと思う内容でした。

 

お金の使いかた=人生!?

資本社会では、生きることと消費を切り離して考えることはできません。

何を買い、我慢し、何に備えるのか……お金の使いかたはそれこそ生き方を決める行為と言っても過言ではないと思います。

もしくは、買ったもので自分が形成されるという考えもできるかもしれないですね。

なるほど、確かに、お金の使い方は人を表すのかもしれない。

美帆は手に持っていたガラスのティーポットを棚に戻した。そのものが自分だ、と考え出すと、なんだか本当にそれがふさわしいのかわからなくなった。*1

昔、祖母に言われた言葉を思い出し、美帆は自身を振り返ります。

子供のころ、お小遣いでもらった数百円、お年玉の三千円を何に使っていましたか?

大人になった今でさえ。今季のボーナスは何に使おうか、臨時で入ったお祝い金で何をしようか。そして毎日のお金の使い方。序盤から自分はどうだろうと考えさせられました。

 

美帆の場合

同じ環境で育ちながらも、若く独身で浪費家な美帆と家庭があり堅実な真帆の姉妹は、とても面白い対比です。

彼氏と別れ、保護犬を飼うために家を買う!という夢ができた美帆は姉に習いながら節約を頑張りはじめます。

1000万円貯めるにはどうしたらいいのか?

美帆の目線で、節約やお金の知識を学べるのもこの本の面白い構造だと思います。

節約・貯金って、しなくていいならしたくないですし、最中は周りが羨ましいと思うこともありますよ。最近の節約こそ正義!みたいな風潮も嫌ですしね。しかしこの本からはそんな押し付けは感じられない。

実用書的な面もありますが、小説ならではの伝わり方を実感しました。

 

智子の場合

意外にも印象に残ったのは、母智子です。

募る夫への不満から熟年離婚を意識し始めますが、そこで問題になるのはやっぱりお金。

今まで頑張ってきたのに、専業主婦が離婚するとこんなにも世知辛いものかと。

お金の話題ってマイナスのイメージが強くタブーな感じもしますが、しかし一度その過程を経て、夫と、家族と改めて向き合う姿には新しい一歩を踏み出す前向きなメッセージがありました。

 

男性の意識の欠落

先ほどの智子の話の時もそうなのですが、全体として男性が家計を考えるという描写が無いなと気づきました。

美帆の会社の元先輩、街絵さんのエピソードも強く印象に残っていて、社会という場から離れることを考えにくい男性と、出産子育て介護での離脱を常に念頭において生きる女性との違いかもしれません。その不安定さがあるからこそより女性の方が、どう生きていくか=どうお金と付き合うかを考えるのだと感じます。

美帆の元彼、琴子の再就職に対して息子の反応を見るに、古い価値観がまだまだ根強いですが、ゆえに女性の逞しさも社会には不可欠だなと改めて思います。

安生という男性も、そんな女性に影響を受けていきます。

そして、美帆と出会う大学生の翔平に新たな時代のアップデートを予感します。

 

「全部、一歩ずつですよ。焦らないで。すべてを一気に変えようと思わないで」*2

人生に不安があるなら、是非読んでほしい。

生き方を変えたいと思ったとき、いつだってお金の使い方を見直すことから始まるのです。

 

 

 

原田ひ香『三千円の使いかた』,中央公論新社,2018年。(文庫版『三千円の使いかた』,中央公論新社,2021年。ここでは文庫版を使用)

*1:12頁

*2:267頁

高瀬隼子「おいしいごはんが食べられますように」

 

こんにちは!

小町です。

 

今回読んだ本は、高瀬隼子さんの「おいしいごはんが食べられますように」

タイトルに惹かれて購入しましたが第167回芥川賞受賞作なんですね。

表紙がポップだったのでハートフルかと思いきや。個人的には、なんとも複雑な後味でした。

 

あらすじ

同じ職場の二谷、芦川、押尾の男女3人の人間関係が食べ物を通して複雑に、緻密に、不穏に描かれた中編小説です。

 

生きる手段としての「食」二谷の場合

二谷は職場ではうまくやっている普通のサラリーマンです。

ただ、「食べること」については憎んですらいるように感じます。食事に時間をかけること、作ること、みんなで食べる行為、すべてが億劫に感じられ「食べるなんて、生きていけないからやっているんだ」と言います。それは、二谷にとっての仕事も同じみたいです。

生きていくための手段として有利な今の仕事を選択しましたが、本当は文学が好きな青年でした。生きていくのに好きなことを選べなかったんです。しかも食品パッケージのデザイン会社ですから。

食への憎しみは自分の人生へのやるせなさからでしょうか。

 

そんな彼の気持ちは、なんとなくわかる気がします。

私自身は食べることが大好きなのでそこは共感できませんけど、仕事は生きるために選んだっていう感覚はありますね…

好きなことを仕事にするってとても怖くて勇気のいることです。

そして他人と違う選択をするということも。

 

二谷の場合、幼少期の記憶からも色んなしんどいさと関連して、象徴しているのが食べることなんでしょう。

古い考え方や同調圧力が憎いのに、好きなことをして生きていくことができない、不器用な現代人です。そんな自分が嫌いなんです。

 

芦川という人物

います!こんな人(笑)

守られてか弱い存在。配慮しなくてはいけない存在。この人物がいるおかげで、この会社がとてもリアルに感じます。

彼女のように生きられたらどんなに楽かと思ってしまいますよ…実際のところ芦川さんにも、生きづらさはあるのでしょうけど。(私は押尾派なので笑)

芦川は大多数が好きな女性らしい人物というだけでなく、今の世の中の象徴でしょうか。

色んな働き方に対応しましょう、誰にでも手を差し伸べましょう、丁寧な暮らしをしましょう、そんなムーブメントを詰め込んだような感じがします。

気の合う押尾よりも、弱くてか弱いみんなに好かれる芦川を選ぶ二谷。ここでも今までと同じように世間の当たり前や同調圧力に合わせて楽に生きていく選択をしてしまっています。

 

「おいしいごはん」が食べられるのか

押尾は二谷と似ているところはありつつも、決定的に違うのは自分を嫌いではないところ。

みんなと同じでいる雰囲気や、世の中の考え方に従うこともあるが、「必要だからやってる」と割り切って、次に進める強さがあると思いました。

一方、二谷はそんな自分と向き合えず、息を潜めて皆んなに合わせる。

おいしいご飯=みんなで食べる温かい食事、家族の食卓ではありません。二谷は嫌悪しているくせに固定観念ガチガチなんで自分の心とのギャップがかわいそうです。

 

辛いなら、みんなでご飯を食べずとも、一人でカップ麺でいいと思うんです。自分は自分で。

 

おいしいご飯を食べて生きていきたいですね。

 

 

高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』,講談社,2022年。