こんにちは!小町です。
まもなく、2024年『本屋大賞』の発表ですね。
ノミネート作品の中でも、私の最推しはこちら。多崎礼さん「レーエンデ国物語」です。
まず紹介文、見てください。
毛布にくるまって読みふけったあの頃のあなたへーーこんなファンタジーを待っていた!
私に言っているのかと思いました。(笑)
幼いころ、夜な夜なファンタジーの世界に浸っていたあなたにぜひ読んでほしい。大人になってもあの時の胸の高鳴りを思い出させてくれる、そんな作品です。
あらすじ
舞台は、西ディコンセ大陸の聖イジョルニ帝国。シュライヴァ州領主家の娘ユリアは親族たちから逃げるように英雄の父ヘクトルと冒険の旅へ出る。呪われた土地レーエンデで出会ったのは射手の少年トリスタン。美しきレーエンデの森に魅せられ、友情と恋を知り、少女の人生は大きく動き出す。
革命の話をしよう。
この一文で始まる物語は、別世界の歴史を語る序章から。
後に『レーエンデの聖母』と呼ばれることになる女性の話だということが示され、この語りからどれほど昔の話なのか、どんな革命のことなのか、ここでは詳細が語られません。
彼女の名はユリア―
ユリア・シュライヴァという。*1
そうして序章から第一章へ。
壮大な歴史の幕が上がります。
すでにわくわくが止まらない始まりです。
世界とレーエンデについて
この異世界の情勢も解説しておきましょう。
イジョルニ帝国は、神の声を聴く者であり、建国の祖ライヒ・イジョルニが打ち立てた「帝国」ですが、長い間皇帝の座は空位のまま。帝国領は12の州とクラリエ教の法皇庁領からなり、選帝権をもつ法皇が実質の最高権力となっています。
帝国領のいずれにも属さないレーエンデという地域は、建国以前から少数民族が暮らし、自治権が与えられている特殊な場所です。大アーレス山脈と小アーレス山脈、レーニエ湖に囲まれ、行き来も難しいうえ、「銀呪病」という(全身が銀色のうろこに覆われ死に至る)レーエンデ特有かつ治療法のない風土病が存在するため、外部から来るものも少なく呪われた地とも言われています。
その一方で、神秘的な自然と独自の文化が残る場所でもあり、
主人公のユリアは父の「ある目的」の旅に同行しレーエンデの美しさに心を奪われるのです。
その描写がなんとも美しい……!
自分がその世界にいるかのように錯覚してしまう没入感。
これぞファンタジーと心が震えました。
読むうちに、ユリアを通して恐ろしくも美しいレーエンデに魅せられていきます。
古代樹の森でのウル族との穏やかな暮らしは、ユリアに友情や愛を教え、充実した日々となっていきます。その一方で、法皇領での諍いや領主たちの不穏な動き、銀呪病、ハグレ者の存在など、不穏な陰は静かに忍び寄ってくるのです。
少女は英雄へ
物語が大きく動き出すのは終盤、「天満月の乙女」は神の子(悪魔の子)を身ごもってしまいます。さらにトリスタンの命も危うい。
どんな目にあっても、ユリアを守ろうとするトリスタンの姿には終始心を動かされました。
でも僕の命数は尽きかけている。残り少ない命の使い方を間違えれば、ヘクトルとユリアは帝国軍の手に落ちる。それだけは絶対に避けなければならない。*2
この一文でトリスタンの覚悟と緊張がひしひしと伝わります。
命に限りがあるから、強く前を向いて生きようとするのです。
ハッピーエンドではないかもしれませんが、強く優しく生きた姿が美しい。ユリアは最初にトリスタンのことを「レーエンデそのもの」と表現しましたが最後のシーンを見るとその通りなのかもしれないと思います。
また「おかえり」というために、還ってくるのをレーエンデは待っています。
「振り返るな!立ち止まるな!前だけを見て走り抜け!」*3
自分は価値のない空っぽな存在だと思っていたユリアですが、彼女の誠実さや強さはトリスタンの心を癒し、そしてお互いを想いあう気持ちが、大きな運命の渦へ飛び込んでいく背中を押してくれています。
再びレーエンデの森へ
か弱い少女がどうして英雄になったのか。
私たち読者は、彼らと一緒にハラハラしたり、悲しんだり、応援したりして物語を共に駆け抜けることができます。
そして、彼らが生きた後の世界を知ることもできるのです。
後の物語で彼らの生きた息吹を見つけることができたらと思います。
自分の本当の人生を見つけ、何に生きるか決めた姿と、心をつかんで離さないレーエンデの地。
ここでは一つの歴史に幕を下ろし、
物語は100年後、また別の出会いから動き出します。