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山本文緒「自転しながら公転する」

こんにちは!小町です。

 

山本文緒さんの「自転しながら公転する」を読んでいきたいと思います。

恋愛小説は久しぶりです。

作者の山本さんは2021年に58歳の若さで膵臓がんのため亡くなっておりますが、本作品は昨年松本穂香さん主演でドラマ化もされましたね。

悩める女性へ、強く生きていくためのメッセージが込められた作品です。

 

 

 

 

あらすじ

東京から地元にもどり契約社員として働き始めた30代独身の与野都が出会ったのは優しいけれど経済的に不安のある羽島貫一。

一人っ子の都にのしかかる親の介護、結婚、出産、仕事の不安…。20代とは違って現実を突きつけれらる30代、悩める女性が「幸せな生き方」を追い求める恋愛小説です。

 

女性のリアルが詰まっている!

 

20代の頃のキラキラした日々と違って、30代になった途端、周りの友達がだんだんと落ち着き幸せな家庭やキャリアを築いていくのを見て、「自分はどうなんだ」と将来への心配が大きくなっていくものです。

 

この小説の中でも、主人公の都と都の母の視点から、恋愛や仕事、更年期障害まで、女性が一度は突き当たるであろう悩みをよく描いています。

他人と比べて、何も成せていない自分に「このままでいいのか」という不安を抱え、周りがうらやましく感じてしまったり……

 

都は、貫一に惹かれていますが、将来のイメージ持てない経済状況に、この人と結婚できるのだろうかと悩みます。もし結婚しないなら、次の恋愛に進まないとタイムリミットもある……これは女性特有の悩みかもしれません。

 

「(中略)でもこれは絵里が自分の望みを明確にして努力して手に入れたもので、棚ぼたじゃないんだよね。(中略)私は何もしないで、いいな~って思っているだけで、本気でそうなりたいってわけじゃないんだと思う」*1

 

幸せになるためには、すべて求めてはいられないものです。

自分の本当の望みは何か、自分と向き合うことが大切です。

 

母娘の視点

 

物語は主人公の都と、母親の桃枝に視点が切り替わって進んでいきます。

同じ女性でも、お互いが考えていることは違い、それぞれの悩みや人生にスポットが当たります。二人の関係性やその描写、視点が切り替わることによって、立場や年齢を超えて読者が共感できるところがあると思います。

また単行本化の際に、エピローグとプロローグが加筆されたそうで、これがいいミスリードになっており、違う女性の生き方を見せてくれるものにもなっています。

 

ぶっちゃけ、序盤の主人公には共感よりも苛立ちを覚えました(笑)

すべてにおいて他力本願。正社員になりたいけど責任は持ちたくない、好きな人といたいけれどお金に困りたくない、家族の問題にも中途半端な向き合い方でした。

でも、20代はこれでもなんとなく生きていけたんですよね。

 

人生をうまく回すには、自分のことを一生懸命やるしかなくて、そうするとおのずと良いほうへ、自分の周りの環境も回っていくものです。

タイトルの「自転しながら公転する」というのを私はそうとらえました。

(ほかの方の感想を見てみると、自分のことをしながら社会を回していくという感じで意味づけしている方もいて、いずれにしても読んだ人の心に残るタイトルなのは間違いないでしょう。)

 

仕事との向き合い方を変えた都は、よく回りが見えるようになり、変化も訪れました。

 

幸せになる覚悟

 

個人的に刺さった言葉はこれです。

「明日死んでも悔いがないように、百歳まで生きても大丈夫なように、どっちも頑張らないといけないんだよ!」*2

 

災害や疫病、事故でいつ死ぬかわからないと言いつつ、医療が進んだ現在は人生100年時代。お金や健康、美容、住まい、なんでも備えが必要です。

将来に重きを置きすぎて今を楽しめないのも、今はしゃぎすぎて将来苦労するのも、どっちも避けたい。バランスが難しいですし、人それぞれ合った配分も違ってくるので誰かの真似をしても完璧ではないかもしれません。

人生の悩みはすべてこれに尽きると思いました。

 

人生を決めるのは、つかみたいものを選択して前に進む覚悟だけです。

自分の幸せに向けて、今日もぐるぐる回っていこうと思います。

 

 

≪合わせて読みたい本≫

作中でも登場しましたが都(お宮)と貫一といえば、尾崎紅葉金色夜叉』です。

テーマは「愛か金か」、みなさんならどれを選ぶでしょうか。

 

 

 

 

山本文緒『自転しながら公転する』,新潮社,2020年9月.

 

*1:267頁

*2:461頁