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現実は生きづらい!村田沙耶香「丸の内魔法少女ミラクリーナ」

こんにちは!

小町です。

 

2か月ほど更新があいてしまいました。年末年始は忙しかったです。

そんな中でもコツコツ本は読み進め、やっとブログに書き起こしているところです。

 

今回も短篇集、村田沙耶香さんの「丸の内魔法少女ラクリーナ」を取り上げます。

不思議なタイトルに惹かれましたが、内容はむしろ厳しい現実。

そのギャップを感じながら楽しく読めました。

 

 

あらすじ

茅ヶ崎リナ、36歳は魔法少女歴27年。今日もコンパクトで魔法少女に変身してストレスフルな社会を乗り切ります。魔法少女ラクリーナは、モラハラ彼氏に苦しめられる親友を救うことができるのか。

ポップな設定に包んでリアルを突きつけてくる短篇4作です。

 

丸の内魔法少女ラクリーナ

誰もが、多かれ少なかれ理不尽な社会と戦うため、自分ではない何かを纏っているのではないでしょうか。そのスイッチは化粧だったり、スーツだったり、高級な腕時計だったり様々です。

その点で私は、魔法少女に変身するのも共感できる部分が多かったです。

主人公にとって自分を守るすべが魔法少女への変身なのです。

 

また魔法少女は、別の自分という側面ともう一つ、子供のころに憧れたヒーローでもあります。

大人になると忘れていってしまうことも多いですが、自分が大切にしていた気持ちや心をしまっておける拠り所、間違わないように道を示してくれた指針なんですね。

親友のマジカルレイミーも魔法少女を通して自分の譲れない部分に気づくことができた描写はとてもよかったです。

社会から自分を守る鎧を着て、今日も頑張る皆さんに、

ぜひ読んでもらいたい作品です。

結局、正義なんてどこにもないんだ、というのがミラクリーナの出した結論だった。大人になるということは、正義なんてどこにもないと気付いていくことなのかもしれない。*1

 

秘密の花園

最初、主人公(内山さん)は早川君が好きでこんな行動をとっていると思ってました。。。

恋を終わらせるためには幻滅が必要。生理的嫌悪感を得るための衝撃的な行動でしたが、なかなか面白い短篇でした。どう思うか内容は読んでみてください。

 

無性教室

「性別」が禁止された学校が舞台。昨今のジェンダー問題への実験的な小説です。しかし、性を無くそうとすればするほど、強烈に意識されてしまうというジェンダーフリーの限界も見えます。同作者の「消滅世界」も読みましたが、その前段という感じでしょうか。

性がなくても愛や自分というものが成り立つのか、小説の中で試行錯誤されているのだろうと思います。

 

変容

個人的にはこれが一番面白かったです。「if」な世界を描くのが上手なんですよね。(何様目線)

「怒り」の感情がなくなったとしたら、世の中はどうなるのでしょう。非合理的な感情がなくなることで円滑に物事が運ぶかもしれません。

最近の若者は交際経験が少なくなっている、怒ることが少ないって、実際聞きますよね。そんなことありえないと思う設定も、うまく現代と地続きに、SFとは言い捨てがたいリアリティが生れています。

ファッションとかと同じで、性格にも「流行」があり、誰かが仕掛けているのだというのも妙にリアルでそうかもしれないと思ってしまいました。お見事です。

「大丈夫。僕たちは、容易くて、安易で、浅はかで、自分の意志などなくあっという間に周囲に染まり、あっさりと変容しながら生きていくんだ。自分の容易さを信じるんだ。僕たちが生まれる前からずっと、僕たちの遺伝子はそれを繰り返していきてきたじゃないか。」*2

 

なんとなく、ファンタジーが読みたくなってきました。次の投稿はファンタジーに決めました。

 

 

村田沙耶香『丸の内魔法少女ラクリーナ』,KADOKAWA,2020年4月。(文庫版『丸の内魔法少女ラクリーナ』,KADOKAWA,2023年2月初版,5月再版。ここでは文庫版を使用)

*1:39頁

*2:194頁