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ドーナツの哲学 湊かなえ「カケラ」

こんにちは!

小町です。

 

読書日記 記念すべき第1冊目は、港かなえ『カケラ』です。

 

あらすじ

美容外科医の橘久乃は同級生の娘の死をめぐり、人々から話を聞く。証言が食い違う中に登場人物の自己正当化が見え隠れする、長編ミステリーです。

 

基本、プロローグとエピローグを除いて、関係者の語りが久乃とのカウンセリングのような形式で進んでいきます。事件の真相に近きながら、登場人物たちの「健康と美」について持論が展開されていきます。健康と美というテーマって、誰しもこれが正しいと自分自身で信じていることがあるんですよね。面白いです。

 

 

ドーナツの穴

小説のキーワードとして、「ドーナツ」が出てきます。

よく哲学の命題として「ドーナツの穴」ってありますよね。

穴はドーナツ本体ではないですが、穴がなければドーナツではない。存在するところと存在しないところと含めてドーナツですし、空洞を認識している時点でそれは「穴」として存在するものでもあります。

このドーナツのイメージは小説に散りばめられています。

登場人物が語るのは真相の周辺、肝心な核心は本人にしかわからない空なまま。それはドーナツの真ん中で死んだ少女のことを指します。そしてドーナツを作る過程で最後の真ん中は作った人にしかわからない味なんだそうです。

 

ドーナツは真ん中においしい成分が集まるんだよ。それをくりぬいて固めて、最後に残ったおいしい成分がぎゅっと詰まったドーナツの真ん中は、作った人へのご褒美、なんだって。*1

 

ドーナツの真ん中は少女、本人にしかわからないことなどを意味していると思います。

穴ととらえると、不完全な部分とも考えられます。しかし本来はその穴も含めてドーナツの大事な部分なので、成分が詰まったおいしいところなのかも。穴=欠点なのか良さなのかどうかは本人にしかわからないことかもしれません。ここで美容や外見というテーマも効いてきますね。

 

形作る「カケラ」

タイトルの「カケラ」ですが、小説全体を通して、真相にたどり着くために登場人物たちから聞く話、カケラ集めと考えることもできますし、自分という個を形作るカケラ(ピース)と捉えることもできます。自分という個も社会にとってはカケラ(ピース)とも言えます。

人にはいろんな形がありますから、

うまくはまらないならその形を変えてみたり、はまる場所を変えてみるのもいいんだと思います。

生きづらさを変える方法はあります。そんなメッセージを感じました。

 

 

湊かなえ『カケラ』集英社,2020年。(文庫版『カケラ』,集英社文庫,2023年。ここでは文庫版を使用)

*1:92頁