こんにちは!小町です。
本屋さんで見かけ、表紙が綺麗で気になっていました。白川尚史さん「ファラオの密室」を読んでいきます。
第22回このミステリーがすごい!大賞でどんな謎が待っているのかワクワクしつつ、
ファラオの密室ってなんの比喩だろうかと思っていたらマジの古代エジプトでした。(笑)
唯一無二の世界観に引き込まれて、どんな謎解きになっていくのか注目です。
あらすじ
紀元前1300年代後半の古代エジプト——
死んでミイラになった神官書記のセティは、冥界の審判で心臓に欠けがあることがわかり、地上に取り戻しに行くことに。期限は3日間。自分の死の謎を追うセティだが、同時に先王のミイラが密室から失踪する事件が起こり、国を揺るがす事態に発展していく。
古代エジプトミステリー
舞台が完全に古代エジプトだったので前知識なしで大丈夫かな?と心配しましたが、すごいサクサク読みやすかったです。大賞にも選ばれていますのでちゃんとしたミステリーなんですが、同時に宗教改革の歴史小説でもあり、異世界ファンタジーでもある面白い作品。
時代的には、みなさんご存じツタンカーメン!のあたりのようですね。
第18王朝のファラオ:アメンホテプ4世によって太陽神アテン神の信仰が推し進められ、古来からのアメン・ラーの信仰を妨げようとしました。
もともと、エジプトは多神教、数えきれないほどの神様がいますよね。それを太陽の形をしたアテンのみを神とするように王が定めたわけです。
背景にはアメンの神官の権力が強まったため、王の権威を高めるべく宗教的な改革が行われたということでして、これがアマルナ宗教改革といわれます。
しかしこれは多くの反発も生み、のちにアメンホテプ4世の子、ツタンカーメンによって、アメン・ラー信仰が取り戻されることになります。
まさにその時代が主人公セティの生きた(生き返った)時代となっています。
アメンホテプ4世(アクエンアテン)のミイラが密室の王墓から突然失踪。信仰が絡んだ国を巻き込んだ大事件が起きてしまうわけですが、その少し前に王墓の滑落事故で亡くなってしまったセティは、心臓を取り戻しに3日間生き返ることが許されます。
心臓が欠けているせいなのか、自分の死についての記憶がないセティは、関係者に話を聞きながら、失われた心臓を見つけるべく事件の真相を探していきます。
「じゃあ、本当に冥界から戻ってきたのか」
「ああ、そうだ」
「そうか……いや、疑って悪かったな」*1
このやりとりが、面白くないですか?(笑)
ちゃんと、「死者が生き返る」世界なんですね。落語っぽい面白さもありつつ。
死んだ主人公が自分で自分の死の謎を追うという設定で、
しかしなんでもありなファンタジーではなくて、謎解きの過程は破綻していないところにギャップがあり好印象です。
トリックには、エジプト神話が組みこまれていて、
(ネタバレ?オシリスの復活のあたりをなぞります!)
かつ、人の心や信仰といったところも丁寧に扱い、心が温まる話になっているんです。
3日間というリミットが設けられているのも、物語にスピード感を与えています。
奴隷の少女カリ
第2章から登場する奴隷の少女カリがキーパーソンです。
エジプトではなく、ハットゥシャ(トルコ南部あたり)から連れてこられた奴隷で、異邦人が故、私たち読者に近い目線でエジプトの世界観に疑問を投げてくれます。
おかげでエジプトについて詳しくなくても楽しめ、読みやすさを助けてくれる存在になっていて、死者が生き返ることにもちゃんと不思議がってくれます。(笑)
セティの友人でミイラ職人のタレクは彼女とセティには重なる部分があると言いました。これも大事なポイント。
この2人が力を合わせて最後の謎に挑む様子もよいですし、それぞれの親との絆もテーマになります。
42の否定告白
「死者の書」は聞いたことがありました。
死後の世界で助けてくれるお守りみたいなものですかね。その中でも有名なことろ。
古代エジプトでは、死後「心臓」と正義と真実の神であるアマトの「羽根」を天秤にかけ、生きていたころの罪の重さをはかります。
その前のオシリスの審判で、42柱の神にそれぞれ「私は~していない」と罪を否定して自己申告していくのですが、
本来の順番とかはさておき、セティが「嘘をついていない」のところでつまずいてしまいます。これも伏線でしたね。セティには、誰にも言えない秘密があったのです。
2度目の生のチャンスを与えられ、大切な人達と話す猶予をもらうことができたおかげで、自分の心に正直になることができました。
自分の人生を生きるというのは、他人を顧みないことではない。誰を、何を大切にするかを、自分自身で決めることだ。*2
意外にも、心が温まる物語で、
死後の世界に思いを馳せることで今を良く生きようと思えるのかもしれませんね。
エジプト神話にも興味を持ちました!
白川尚史『ファラオの密室』,宝島社,2024年1月。