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松下龍之介「一次元の挿し木」

 

こんにちは!小町です。

 

ブログ、3000PVを超えていました(拍手)

細々と書き続けてきて皆様に読んでいただけて大変うれしく思っています。

これからも頑張って綴っていきますので、どうぞよろしくお願いします。

 

梅雨の時期に入りましたが、連日すでに夏のような暑さですよね💦

ひやっとするような怪談……が思いつかなかったので、今回もミステリで(笑)

 

松下龍之介「一次元の挿し木」です。

第23回『このミステリーがすごい!」大賞、文庫グランプリ受賞の作品。

 

季節に合わせて紫陽花と、頭蓋骨の表紙が特徴的な作品を選んでみました。

 

 

 

あらすじ

4年前に失踪した妹の紫陽。ヒマラヤ山中で発掘された200年前の人骨と妹のDNAが一致したことで、七瀬悠は真相を突き止めようと行動する。不可解なDNAの謎や宗教団体との関わり、妹の行方を追う悠と、殺された教授の姪石見崎唯は事件に巻き込まれていく。

 

クローン技術と倫理的問題

 

いきなりのネタバレですが、タイトルからすでにお分かりいただけますよね。

 

一次元=DNA、挿し木=クローン

と、いうことで行方を追っている妹の紫陽は、クローン実験で生まれた存在だということはなんとなく序盤で察しがつくと思います。

 

途中途中でも言及されていますが、純粋な科学的興味だけでは人間の持つ倫理的観点の壁を超えることは難しい。

クローン技術はその最たるものではないでしょうか。

 

医療にも役立つはずのこと、作中でも分子生物学の世界的権威である仙波佳代子は孫の命を救われたと強調していますが、そこに至るまで、紫陽のような哀しい存在がいたことは無視できません。

 

さらに最後は「神」の代替(生贄、犠牲とも取れますが)として生きていくことを選ぶのですから、切ないことこの上なかったです。

 

科学的な話を中心に展開していくにも関わらず、わかりにくさを感じすに読みすすめらました。

それに加えて宗教や神話も織り交ぜ構成する手腕。本当にデビュー作?(笑)

個人的にはミステリとしてもエンタメとしても大変面白い作品だったと思っています。

 

遺伝子に組み込まれた運命

 

たった4つの塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミン)の並びで、人間が構成されていて、何か欠落していたり多く持っているというだけでも病気になったり、凶暴性が高くなたり、決定づけられているとしたら。

クローンは元の人間と同じ顔かたちだけじゃなくて、同じような運命をたどることにもなるのかしら?

 

自分自身が複製された人間だということを知っていた紫陽は、抗いたいと心の奥底では願っていたんだと思います。

 

自分はなぜ生まれてきたのか。必要な存在であるのか。

 

紫陽だけではなくて、誰しもが考えたことのある哲学的な問い、それがこの作品のテーマにもなっていると思います。

 

また、ギリシャ神話のミノタウロスも出てきますが、自分が生まれたのはなぜかという問いに深く関わりますよね。

最後のシーンなんて、ラビリンス(真実を見つけるための苦悩とも解釈するそうです)に迷い込んだテセウスアリアドネの助けのメタファーでした。

 

過去という怪物

 

ここからは私の自分語り。

結構好きだなと思った一文を引用。

過去が、過去という怪物が、口を広げて石見崎を呑みこもうとしていた。*1

 

運命はもしかしたら、ある、と個人的には思う。

でもその過程をどう生きるかが大事だと考えています。

 

自分の行動や過去の過ちが「怪物」となって自分自身を襲ってくる。

そういう風に人生もできているんじゃないかな。

 

 

 

松下龍之介『一次元の挿し木』,宝島社,2025年2月。

*1:27頁