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多崎礼「レーエンデ国物語」(2)月と太陽

 

こんにちは!小町です。

 

少し前にご紹介した、多崎礼さんの「レーエンデ国物語」シリーズ。

今回はその2作目「月と太陽」、3作目「沈黙か喝采か」を一気に読んでいきたいと思います。

書いてみると長くなってしまったため記事は二つに分けていますので、ぜひチェックしてください。

 

個人的には2作目がつらすぎて、3作目も一気に読んでよかったと思っています。

ずっとこのもやもやを抱えていられない。(笑)

発売当初に読んだ人たちはこの感情をどう処理したんでしょうか。本当に気になる。

みなさんの感想もお待ちしています!

 

 

\1作目の記事はこちら/

comachi0438.hatenadiary.com

 

 

 

あらすじ

名家ダンブロシオ家の次男ルチアーノは、何者かに襲撃され、命からがら逃げた先、レーエンデ東部ダール村にたどり着く。そこで怪力の少女テッサと出会い、惹かれ、心穏やかな生活を送るが、テッサは戦場に赴き、村は悲劇に見舞われる。結婚の約束をした二人の運命は——

 

 

少女は英雄になる道を選ぶ

前作から100年が経ち、イジョルニ帝国の支配下でも、強く互いを想って生きるテッサ達。序盤はそんなレーエンデの人々の姿が描かれています。つらい経験をしたルチアーノ(ルーチェ)もそんな生活の中で、彼女たちとの穏やかな暮らしが続くことを望みました。

結婚の約束をしたルーチェとテッサでしたが、村の危機を救うため、帝国の要請に応じて出征したテッサは、生まれ故郷の悲劇を契機にレーエンデに自由を求める戦いへと身を投じていきます。

大好きなテッサを守り、支えたいと願うルーチェも自分のやり方で、革命の力となりやがてレーエンデの解放は目前まで来たように思えました。

 

……しかし、現実は残酷ですね。

アルトベリ城の攻略作戦のシーンは、緊迫した中手に汗握る展開で興奮しましたが、それよりもたった数ページ終盤のルーチェの兄エドアルドとの対峙の場面の方が息ができない緊張感がありました。

 

まさに、月と太陽

レーエンデの太陽は倒れ、長く苦しい夜の時代が始まってしまいました。

 

明るく快活なテッサはみんなを導くにふさわしい英雄でしたが、ルーチェに見せる本来の彼女は誰かのお嫁さんになることが夢だった女の子でした。

彼女を強くしたのは紛れもなく戦争であり、その時の隊長であったシモンが英雄像を与えたのだと思います。

シモンを倒したことは英雄としての軸の瓦解を示唆し、前後の展開とも合わさって今までの自分を見失いテッサは苦しみますが、ルーチェに好きでいてもらえる自分を取り戻すため、最後の決断をします。

 

 

少年は残虐王に

ルーチェはルーチェでつらいですよね。

自分が好きになってしまったから、手伝ってしまったから最愛のテッサは死ななければならなかったと思ってしまう要因が多すぎます。

テッサの最後にかけた言葉が、大好きでも愛してるでもなかったことに、苦しくて仕方ありませんでした。

 

どうして彼は残虐王になってしまったのか。

狂ってしまったといえばそれまでですが、レーエンデの人々の愚かさへの怒りや絶望があったのかもしれませんし、革命を起こすには苦しみが足りない、早すぎたということなのかもしれません。

そういう意味では、彼の制定した二つの法律は、次回以降全然違う形で革命の火を育てていくことになったのではないかと思います。

 

次の革命は

個人的に一番印象的なキャラクターはテッサの姉のアレーテです。

 

「それに人って言葉でものを考えるから、知っている言葉が増えれば、それだけ考え方も豊かになるの。考え方が豊かになれば視野が広がって、それまで見過ごしてきたことにも気づけるようになる。何が正しくて何が間違っているのか、自分の頭で考えることが出来るようになる。(中略)教育の力はどんな武器よりも強いって信じているからなの」*1

 

序盤での彼女の言葉ですが、武力をもって自由を勝ち取ろうとするテッサと対照的ですし、物語が進むにつれ、この言葉がどんどん存在感を増していきます。

剣ではなくペンで。

彼女の考えが、次巻の新たな革命の布石になっているように思います。

 

テッサの戦い方は間違っていたのかと思わされるラストでしたが、決して無駄ではなかったと思いたい。

次の3作目を読んで本当に救われたました、私の心が(笑)

 

さらに時代は進み、芸術と産業が発展した聖イジョルニ帝国支配下のレーエンデに生まれた双子のお話です。

 

 

 

多崎礼『レーエンデ国物語 月と太陽』,講談社,2023年8月。

*1:47頁